戦場のメリークリスマス

 それは、私にとって生まれて初めてのコンサートであった。その曲が坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」であることを知ったのは後日のことだった。私はその曲をテープに録音し、受験勉強中毎日のようにきいた。そして今でもその曲が聞こえると、あの焦りと感動の入り交じった、高校時代の真摯な私の心を感じる。


 視聴覚教室というスライドやら映画やらを見る教室が、私の通っていた高校にあった。。私を含めて、男女6人が1グループになってその教室の掃除を毎日行っていた。夏は暑く、冬は底冷えのする、人の居ない大学の教室によく似た少し寂しいところだった。


 たしか、高校3年生の秋だったと思う。いつもの掃除をしていると、備え付けのピアノを女子の一人が弾きだした。ビリー・ジョエルのオネスティだった。自分でアレンジをしたらしく、さすが女の子だなぁと思い、私は拍手をするような気持ちであったと思う。驚いたのは、次の瞬間だ。続いて男子の一人が、ピアノを弾きだした。聞いたこともない寂しげなイントロだった。聞き惚れているとその曲は、独りでに躍りだして、ついには私の想像を超える展開をみせた。寂しく寂しく激しく。


 私はその時どう思ったのだろう。嫉妬だったのか、ねたみだったのか、限りなくそのような部類に近い想いだった。弾き終えて「最近、弾いてなかったから」と拙さを言い訳する彼の一言にさえ、心が揺れた。彼は私の出席番号が一つ後ろで、1年生の時から同じクラスだった。よく話もし、けんかもする友人。その友人が3年目にして、突然みせたその姿に私は驚き、自分の高校時代はつまらないものだったのではないかと一瞬にして不安になった。このような素晴らしい音楽を奏でる練習をすれば良かった。できもしないそんな焦燥感を抱き、今の受験勉強漬けの生活を疎ましく思った。あぁ自分は今すぐにでも芸術をやりたいのだと。

 
 私の人生は掃除時間に聞いた友人の拙いピアノの一曲にひれ伏した。