マーラットディブサ

雨が上がるのを待って出発。
向かい風が強い。
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一面のオリーブ畑。


アレッポまで宿のありそうな街はないけれど、
不安はない。シリアはきっとどうにかなるだろうと思う。


ちっともすすまないうちに夕方、
雨が再び降り出す。


屋根のあるバス停で雨宿りしつつ、
ライトを自転車につけていると
「何か手助けが必要ですか?」と
シリア人の青年。


「特にないけど、うーん。
テントを張る場所がこのあたりにありますか?」


「それなら、そこのモスクで寝られますよ。」
と。


地元の人用の大きな礼拝堂の横に
通りがかりの運転手用の小さな部屋がある。
そこなら大丈夫だと。


6時半の最後の礼拝が終わるのを待って中に入る。
自転車も一緒に入れていいって。
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廃墟の多い寂れた町でもモスクだけは立派。
夜に走っていると道の先には、それぞれの町の
モスクの尖塔の先の緑色のライトばかりが
点々と光っている。



横になっていると、外人が泊まるという噂を聞きつけたのか
ちょっと金持ちそうな英語が話せる人の集団が
やってきて、
「ごはんを食べに行きましょう。」
という。


ビスケットしか食べていなかったので、ありがたく
ついていく。


でも、高速沿いをそれて町中への真っ暗な夜道。
あれ、もしこの人たちが僕を拉致しようとしたら
簡単にできるなと、ふと我に返る。


さて。


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連れてこられたのは、丘の上のベッド一つしかない小さな家。
「ここで泊まったほうがいいよ。」と一人が言う。
鍵を外から閉められたら、完全に終わりだ。
誰も僕の所在がわからなくなるやろう。



ホンモスというここいらの主食を食べ終わった後、紅茶を飲む。
睡眠薬とか入れられていないやろうか。でも、
一つのポットから皆のカップに注いでいるので安全や。


「写真を撮りましょう。」というと、
快くOKで。


みんなでベッドに座って写真を撮る。
写真を撮るのは、悪人かどうかを見分ける、
旅行者の一つのテクニック。
嫌がる人間にはなにかやましい所がある。


外に小便しにいって帰ってくると、
「写真を見せてくれ」と一人が言う。
ダマスカスから始まって、ハマ、ここまでの写真。
そして、さっき撮った集合写真のところで。
「Delete(消してくれ)!」
という。


集合写真どころかこの家の写真もすべて消さされる。
さあ、きた。


「彼が写真が嫌いでね。」と一人を指差す。
そう、敬虔なムスリムが多いシリアでは写真を
撮られるのを嫌がる人が多い。
でも、どうにも妙なタイミングや。


それに、さっきはここに泊まっていけと言ったのに
「ガバメントの人間が朝方にパンを届けにやってくる。
そうしたら、面倒なことになる。
モスクで泊まったほうがいい。」という。


どうにも怪しい。
緊張してきた僕に気づいて、皆が急に英語で
話をして、場を和らげようとする。
それがまた怪しく。


タバコを勧められるままにガバガバ吸っていたら
気持ち悪くなったので、
「それでは、モスクに行って寝ます。」と
その家を出る。
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夜10時。
雨がずっと降っている。
モスクの中、
電気を消す。


中東は安全だ、好きだと言ってきたけれど、
最後の最後はどうも信じられない。
これが滞在の長かった中国ならどうやろうか、
よく知っているインドならどうや、
信じられない理由はなんや。たかが写真を消した、
それだけか。


そんなことを考える。


そんなに危険を感じてまで皆を信じようと、
聖人のようにならなくてもいいのに、と母が言いそう。
でもなあ。


さっきの人達が戻ってくるような気がする。
扉の向こうの音に敏感になり、
緊張していて眠れない。




何も気配がかわらないまま数時間。
近所の人が電気をつけに来る。
朝4時。
起き上がると、「そのままでいいよ」のジェスチャー。
でも、結局眠れないのはわかっているので、
夜が明けていない中を出発する。



走っているうちに道路が灰色く明るくなっていく、
畑が見えるようになり、横を見ると朝日の予感がする。
杞憂だったな。あの人達は普通のいい人達だった。


日が昇ると
いろいろ心配していたのが馬鹿みたいに思えるけれど、
今は今で何かが見えていない気がする。


夜はすべてのものが光と闇に分かれて単純になり、
自分の考えも単純になる。
暗闇の中から、自分の偏見が浮き上がった。


睡眠不足で走っていると、どうにもだるかったので
道端の茶屋でコーヒーを頼む。


長い休憩。
出際にコーヒー代を払おうとすると、
特に仲良くなったわけでもないのに
また、「お金は要らない」のジェスチャー。申し訳ない。
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朝焼けがきれい。


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