ニャラム
朝、バター茶とザンパをご馳走になる。
でも二日前から胃がムカムカして飯を食べられない。
高度と疲れのせいなんやろうか。
インドで大量に買っておいた経口補水液の粉末を
水に溶かして飲み、おかしをかじるだけで精一杯。
あと、オナラが大量に出る。
一晩で100発はこいていると思う。
天井の空いている遊牧民のテントでよかった。
ビザの期限はあと2日。中国を出てからゆっくりしたい。
言葉が通じない人を前にモノを食べられないのは辛い。
仲良くなる最適な手段を失ったのがよくわかる。
「仲良くなる」と書くと、なにやら幼稚な作文みたいだけれど、
ここでは「仲良くなる」ことが至上の命題で、
それさえできれば後はどうにでもなる。
1握りたべると気持ち悪くなった。
異様に少食な僕を気遣ってか、なにやら箱の奥のほうから
肉の塊をだし、ちぎって「食べろ!」と手渡してくれる。
羊の肉。
ありがたい、でも食べられそうにない。
でも好奇心が勝ったなあ。
食べてみる。なんの味付けもない。肉。
でも不思議と臭みが少なかった。
一宿一飯のお礼に
喉が痛いという彼に、中国で以前買って
持っていた喉スプレーをあげた。
そして出発。
また峠だ。もういいっす。
景色は圧巻。空に向かって進んでいく。
道の左右は月か火星か。地球にいるとは思えない。
標高4950m。路傍の石標に
中国語で「最后的山口」とサイクリストの落書きがある。
ああ、ここが最後の峠。
ここはちょうど、ヒマラヤの北側、
その山脈の少し手前にあたる場所。
ここから先は切り込むように、谷沿いを下っていくはずだ。
心地よい長い休憩を一人取った。
おどろくほど風が強い。
それなのに、近くの山の上にある薄い雲は
形をかえずにゆっくりと頂をかすめていくのが
不思議に思える。
時折、観光客がランクルで乗り付けてはすぐ去っていく。
下るのが名残惜しい。