孔腊
チベットには「おばけ坂」というものが多い。
目で見ると平らな道なのに、実は上っている、とか
上っているように見えて、じつは下っている、とか。
視覚なんて頼りにならず、
自転車を転がしてみて上りか下りか初めてわかる。
平らな道を走っていて
あれ?と体が感じて高度計を見るとのぼっている。
そんな道ばっかりだったような気がする。
写真では伝わりにくいけれど、
これは実は急な上り。平らなように見えるかな。。
また標高5000mに向かって上っていく。峠かな。
もうとっくにこぐのはあきらめて坂の最初から
自転車を押している。
国道沿いには「道班」という道路の保守を行う人達の
事務所がポツンポツンとあって、
頼めば水やら寝る場所を提供してくれるのだけれど。
日が暮れた後、道班を訪れて「泊まらせてくれますか?」
と聞くと、早口の中国語でなにやら言うので聞き取れない。
「外国人なので聞き取れません。」と言うと、
「じゃあ俺も聞き取れない。」と、
なんか怒らせてしまったようで扉をガシャリと閉められた。
中国語がすべてと思うなよ!
別にどこでも寝るからええわと
空き地でグランドシートを広げていると
懐中電灯を揺らせて遊牧民達がやってきた。
どうやら羊泥棒と間違われたらしい。
怒っているみたい。あわわ
僕の自転車を見つけて、誤解はすぐに解け
「そんなところで寝ては夜中寒いよ。」と
羊を囲う石垣にシートを持っていってくれた。
「いや、ここよりクゥのほうがいい。」と
クゥという、あの天井の開いているテントで
寝ることを勧められた。
クゥの中には青年が一人いるだけだった。
羊毛の服を敷いて寝床を作ってくれる。
空いている天井から明るい月が見える。
トトフは新月だったなあと思い出す。