仁布
たまにある猫の額ほどの平地で
小麦を作っている。
青海側は街から街まで人の姿を見かけず、
何十キロもツンドラの荒野が続いた。
チベット自治区に入るとポツポツと街の間に
家が見かけられるようになり、ヤクを多く見かけるようになった。
ラサ周辺からは小麦畑を見かけることが多くなった。
ここらの牛はヤクとはまた別種みたい。
昼下がり。
休憩中の農夫たちによく呼び止められる。
「チャー トン」
楽しそうなので寄っていくと、出てくるのはバター茶ではなく
麦で作った「イー」とか「チャン」というドブロク。
僕が飲むのをうれしそうに見ている。
度数は2、3%ぐらいだろう。
水がわりにゴクゴク飲める。
2、3杯飲んでいるとさすがに酔ってくるのだけど、
水筒いっぱいに作って持っているので、どんどん勧めてくる。
あー こぐのだるくなってきますなあ。
マニでも回しますかね。マニでも。
つまみに茹でたジャガイモを持っている。
これもまた素朴でおいしい。
夕暮れ時、街のはずれで長屋を建てていた。
「この辺に空き地はないですか?」と聞くと
親方らしき人が呼ばれてきて
「ここで寝てもいいよ。」と長屋の一室のシャッターを
開けてくれた。
おー、招待所や旅社よりも清潔で静かじゃないか。
埃だらけの方がああいうところよりもキレイに思える。
ラサを出てから日本人であることを名乗るようにしている。
半ばやけくそ。やけくそぐらいが楽しいんじゃないやろうか。
僕が話しかけたかけた若い男は
長屋の壁に絵を書く職人。
外国人が来たらしい、と集まってきたのは左官職人。
チベット族の三味線みたいな楽器を持って歌い始めたのは
ショベルカーの運転手。
ここでもまた「イー」をふるまわれる。彼らがここに
寝泊りしながら仕込んだもの。
3日後に飲むという「イー」の仕込みを見せてくれた。
麦を茹でる。
茹であがって粗熱の取れたところに小麦粉をふりかける。
2日待つと発酵する。
水を足す。
1日待つ。
出来上がり。
だそうだ。
何十杯飲んだだろう。食事も分けてくれた。
モモ(餃子)入りのシチューみたいなもの。うまいなあ。
ネパールまで自走するのも案外楽しいかもしれないなあ。
走れば変わりますなあ。
職「ザンパって知っているか?」
僕「知っている。まず人差し指でこうやって、こうやって、あと全部の指でこう
器も回しながらこねて食べるやつだろう?」
と手まねをしてみると大ウケだった。
僕「ザンパはおいしいよ。」
(ああ、また言ってしまった)
職「明日の朝はザンパを一緒に食べよう!」
ははは。
トイレはその辺で。
小も大も、チベットには公衆便所ってものが少なくて
建設中の長屋に小便をひっかけて皆寝ていく。
いいんやろうか。
でも、不思議とウンコの姿がない。
道端のあの巨大なウンコはヤクのだと思うし。
チベット人はどうやって大便をしているんやろか。