ラサ

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4000mより下に降りてくると草木が生えていた。
大地に生気を感じる。
あー木だ。木を見るのはゴルムド以来だ。
なんだか心に安心感が広がる。


でも、すぐに違和感を覚えた。
どれも人工林なんだなあと。
ラサに近づくにつれ、中国政府の気配を濃く感じ始める。


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街路樹のきれいな道、
物々しくなってくるいくつかの検問をやり過ごして、
ラサに着いた。
無機質な中国っぽい町並み。
チベットでもどこでも、こうなってしまえばどこでも同じだなと思う。


パトカー、武警、軍隊。やたらと多く息が詰まりそうだ。
広い大地、青い空の自由な郊外と対照的だ。
まあ勝手に自由と思っているだけだけれど。



郊外からポタラ宮がどのように見えてくるか楽しみだったけれど
高い建物群に阻まれて最後まで見えることがなく、
結局100m手前ぐらいで建物を挟んで初めて見えた。


ポタラ宮にたどり着いたけれど、予想通りなんの感慨もなかった。
ラサに来るのは一つの目標ではあったけど、やっぱりな。
お遍路の88番札所で結願したときと同じようだ。
なんだか、もう終えたなあという気がした。
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(よくわからないけど、集まってきたひとと一緒に)


旅行許可証のチェックが厳しいラサにあって、
なくても泊まれると聞いていたホテルに行くと、


「一泊ならOK。」
「今夜、あなたの情報を公安局に送るから、
担当の署員がそれを受理するのは明日の朝。
それまでに出て行ってくれたらいい。」


ああ、もうウンザリだ。
覚悟の上で来たけれど、元来小心者の僕は
公安の検問通るたび、パトカーが通るたびにビクビクして、
精神的な限界は近いと思う。
テントで寝ていて、自分のうなされ声で起きるとき
ああ、緊張しているんだな、俺って気づく。
とにかく今は堂々と宿で寝たい。


一晩考えた挙句、
早朝、宿をでたその足で公安局に出向くことにした。
よく旅行者の掲示板で「出頭」だなんて大げさに書いてあるあれだ。



翌朝、今まで逃げ隠れしてきた、
あの青と白の公安カラーの建物の中に入っていく。
まさか、自分から出向いて拘束されはしまい。



大事なのは自分が納得できるかどうかだ。
自分がやろうと思ったことをやりたいようにやったかどうかだ。
自転車でこのままコソコソ旅行を続けるのは本意じゃあない。
本意に従って公安に行くことのほうがむしろ自分の乗り越えたい壁じゃあないか。


「知らずに無許可でチベットに入ってしまいました。」
「明日、それができなければ今すぐにバスで
チベットから出ていくので許してください。」
「とにかく犯罪者にはなりたくないのです。」


緊張で中国語がうまくしゃべれない。




すると外国人管理局の警官は、ちょうど宿から送られて来ていた
僕のパスポートのFAXをチェック中で、
「ああ、あなたですか。」
「そのような深刻な問題ではないので、安心してください。」
「今からいう旅行社に行って、必要な手続きをすれば許可証をだします。」
耳を疑ったけれど、確かにそう言った。
そうだった、中国滞在計6ヶ月。
公安の人間って案外紳士的なもんだった。



深刻に悩んでいたのが馬鹿みたいだ。
なんだか心晴れ晴れ、めちゃくちゃ
気楽になって、悠々と自転車をこぎ旅行社にむかう。
職質カモーン、パトカーOK、僕はもうすぐ合法的な滞在者。


教えられた旅行社は、僕のような客が集められてくるところだった。
「乗り合いバスは外国人が乗ることを禁止しています。」
「国境までランクル一台一日2,500元、ガイド一人300元。」
「それが払えなければ、許可証は出せません。」
流暢な英語で淡々と旅行社のチベット人は説明してくる。


今日すぐに出るとしても、一日2,800元(40,000円)。
法外な金額だ。バスで500元ぐらいを想像していたのに。
まあ、旅行社を通してここまで自転車で来ていれば、
400,000円以上のツアーになっていたはずだけれど。
しかし、払えない。現実にお金がない。ああ。


深ーく沈んだ後、
「払えないから自力で国境まで行くよ。」というと、
「それがあなたの唯一の方法ね。」とそっけなく
旅行社の人が言った。


一度、国境まで車移動することを思い描いてしまったので
コツコツ走る気力がまったくなくてラサ市内をウロウロする。
パトカーを見るたび、捕まえて国境まで移送してくれたら
それはそれで楽だなあと思った。




公安局の問題に対する「温度」を感じられたことは良かった。
「そんなに深刻な問題ではありません。」か。
今朝までのビクビク感はかなり薄らいだ。
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向かい風の中、郊外までなんとか走って
林のかなり奥の方でテントを張った。



月が明るい。トトフに居たときは新月だったもんなあ。
チベットに来て初めて酒を飲む、月見酒。
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また、ボチボチこいでいきますか。