桑雄
テントを張る場所が見つかりそうにない。
もうナイトランはこりごりだなあ、と夕暮れ時。
道沿いにテントを見つけた。
ラサに向かう巡礼者のものだった。
ここにまぎれこんでテント張れば
公安に怪しまれないやろう。
テントから出てきた青年に
「近くにテントを張ってもいいですか?」
と聞くと
「いいよ、いいよ。」
「もっと近く、もっと近くのほうが風が少ないよ。」と。
僕が聞かれた質問を同じように彼にすると
「どこから来たんですか?」
巡「玉樹から」
「どのくらいかけて?」
巡「今4カ月目、ラサまではあと1カ月かかる。」
!!!
「何人で巡礼しているんですか?」
巡「53人。」
!!!
彼らは五体を地面に投げ打ち、祈りながらラサを目指している。
一日に進める距離は9kmだと言っていた。
53人のうち、実際に五体投地を行うのは40名ほどで
のこりは小さな子供と、皆の食事を作ったり、テントの撤収、組み立てを行う人
巡礼の世話役のおじいさん。荷物を運ぶドライバー。
夜中、ビュンビュン風が吹き荒れる中、
その日の巡礼を終えて皆が続々と戻ってくる。
すごい数の人。人影まばらなチベットで、
数人いれば混雑しているような
印象を受けていたので、少し怖いぐらい。
皆、とても若い。20代前後みたい。
「チャー トン。」
茶を飲め、という意味らしい初めて覚えたチベット語。
誘われるままに塩味の茶を飲み、
大きなテントの中に入ると、皆勢ぞろい。
100個の瞳がこっちを見ている。うわー
人の体温だけで暖かいテント内。
充満するチベット人独特の匂い。
なにやら皆で読経を始めた。
ながーい読経。4,50分続いた。
読経の最後のほうは
真言「オムマニペメフム」の繰り返し。
「一緒に。一緒に。」
「オムマニペメフム」「オムマニペメフム」「オムマニペメフム」
カメラを向ける僕にじゃれてきたり、仲間同士で小突きあったり、
この同年代が和気あいあいと合宿する生活がとても楽しそうに見えた。
読経を終えると、
外で作っていた食事が運ばれてきた。
牛肉と玉ねぎ、ジャガイモ、それにワンタンみたいなのが
入っているシチュー。
「食べなさい。食べなさい。」
「おいしい? おいしい?」
格別にうまかった。
が、
横に座っていたきれいな女の人が、
食べ終わった皿を早業で一気に舐め、きれいにしたときは
カルチャーショックだった。
と思いきや、熱い茶を音を立ててすすった僕に
100個の目が突き刺さる。
茶をすするのはだいぶ行儀が悪いことらしい。
「こう飲むんだ!」と若い子が音を立てずに飲んで見せた。
その講釈が面白かったらしく、テントでみんな笑った。
なんだか最高の夜なんですけど。
もうこの夜があったからいつ終わってもいいなあ、と思った。
なんでこんなに嬉しいんやろうなあ。
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試しにどこまで上がるか久々に設置してみる。