アムド

夜中、小便がしたくなったけれど
外に出るのが億劫なのでコップの中に出して
そのまま寝た。



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朝起きると、小便もテントの中のペットボトルの水はもちろん
テントも寝袋も水分なんてないはずのバッグでさえバリバリに
凍りついていた。


テントの外に腕時計を放りだして
しばらくして温度を計ってみると、−−という表示で計測不能。
肝心なときにダメやん、カシオプロトレック。


テントの中はマイナス12℃。
心構えができていたので思ったよりも寒くなかった。
が、寝袋を出て動き出すのはほんま辛かった。



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坂道をこごえながら下って
検問のあるアムドの街をビクビクしながら通り抜け、
町外れの食堂で久々のちゃんとしたご飯を食べる。


「どこから来たの?」
僕「ん、香港から。」
「香港からここまで何日かかったの?」
僕「飛行機を使ったから2週間ぐらいかなあ。」
「ねー、お母さん。彼、香港人だって。」
僕「あ、いくら?もう行きます。」


もうチベット自治区に入っている。
日本人だなんて気安く誰かに言えない。
通報されるかもしれない。
簡単な会話なら中国人っぽく話せるけど、
少し難しくなるとたちまち怪しくなる僕の中国語。
会話は最小限に抑えたほうがいい。


夕暮れ時、チベット人の村で野宿用の買出しをしていると
「あの家に泊まれるよ。」と
商店のおじさんが教えてくれた。



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家の中に居たのは二人のチベット人女の子。
「一泊いくら?」と聞くと
「いくら払うの?」と。
ああ、宿じゃなくて民家なわけですか。ここは。
「20元(300円)」
と言うと彼女は喜んで、ニッと金歯を見せた。
びびった。


チベット人の女の人は日本人と似ていてきれいけど、
なぜか金歯の人が多い。うーむ。


お茶を振舞ってくれたり、手製のお菓子を振舞ってくれる
女主人はまだ25歳。友達の女の子は19歳。
結婚はしているけれど、
子供と旦那さんは別のところに今住んでいるらしい。
そんな女所帯に今夜泊まっていいんでしょうか。


夜九時。
「それじゃあ寝ます」
と言うと、今まで座っていたソファがベッドになった。
チベットの家というのはそういうもんなんや。


夜、女友達が何人か来て話をしだす。
勘弁してほしいなー。
どこでも女っていうのは話し好きなもんだなあ。
こんな山奥でも話題っていうのは、あるんだなあ。
いや、あるだろうなあ。山羊の話か、お金の話か、
恋の話か。



電気が消えて、解散。
あー寝れると思ったら今度は男が登場。
なにやら、電話番号を女主人に聞いてたり、
長々と自家発電のライトの下で話している。
なんだろうな。さすがにイラついて、起きあがって
様子をうかがうと、ああすまないね、といった様子で
男は出て行った。


で、女主人も僕も完全に寝ていた夜中、
なにやら物音がして目が覚めた。
さっきの携帯電話男の声がして、吐息荒く女主人の
ベッドに潜り込んでいった。


何、夜這い?
究極に勘弁してくれ、と思っていると
なにか交渉決裂のようで携帯電話男はすぐに外に出て行った。


やああれはいったいどういうことかと
そういう文化なのかとしばらく眠れず考えていたら、
また携帯電話男がこそっと家に入ってきて
女主人のベッドに入っていく。
「あの日本人が寝てからね」
さっきの交渉決裂はそんな話だったのか、ふう。
ああこんなことなら、野宿のほうが百倍気持ちよく眠れる。


そうすると、またもや交渉決裂のようで
携帯電話男はこっそり家を出て行く。


そのあとは、どうにでもなれと耳栓をして
ぐっすり眠てしまって何が起こったのか知らないけれど、
早朝起きた僕に女主人も合わせて起床し、
眠たそうに乾燥させた牛糞をストーブにくべ始める。

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