栄将
ここらでは、そら飛ぶ鳥をひきそうになるのだ。
何日ぶりかの本格的な山道。2000m級の峠をいくつか越える。
最近の楽な道に慣れて水を少ししか持っていなく、店も見当たらないので
道端で売っているポンカンを大きくしたようなみかんを買った。
売り子のおばさんに日本人だと話すととても喜んで、
余分に一つくれた。携帯で写真をたくさん撮られた。
のどが乾いていたのでみかんをむさぼり食っていると、
よほど僕の食いっぷりがよいのか、車が次々と止まりだした。
来る客来る客におばさんが
[この子、日本人なのよ]と嬉しそうに話していると、
客のひとりが車内から日本人を連れてきた。
2週間ぶりの日本人。
[こんなところに日本人がいるなんてねえ]って
それは僕も同感。
そんな偶然の出会いに売り子のおばさんも喜んでくれて
また、みかんをいくつもくれた。
運ぶのが重いので、その場でどんどん食べていると
そんなにおいしいなら、とさらにみかんが増えるので困った。
バッグをみかんでいっぱいにしてこぎ出すと
案外ペダルは軽かった。
予定していた街を通り越して、どんどん山奥に入ると夕暮れ間近。
調子に乗ってこぎすぎたなあと、さすがに心細くなって
芝刈帰りのおじいさんに、[このへんに宿はありますか?]
と聞いても通じず、筆談もできず。
暗い山中に[山荘]の文字をみかけたので
その看板の方に向かうと人がいて、
[部屋はありますか?][あるよ。]と。
[今、停電していてね。]とロウソクで照らした室内は
いまだかつてみたことがないほどのぼろい宿。
トイレにいくと、もちろんドアなんてものはなく
しゃがみこむと尻のあたりを大きな豚とニワトリが
うろちょろする。
豚って、犬や猫みたいにコミュニケーションがとれない
動物だとわかった。退いてくれない。
夜中に電気がついた。すると、どこからともなく男たちが
やってきて鍋をつついて大騒ぎして帰っていった。
何がなにやら。