西昌
白酒でベロベロに酔って
用意されたバケツに夜中に吐くだけ吐いた。
目覚めると、庭では早くも近所の女の人たちがあつまって
二日目の朝食の準備をしている。
部屋をでて、はなれの便所にバケツを持って急ぐと
皆がニヤニヤ笑っている。
あの日本人、酒の飲み過ぎで吐いたんだって、って
たぶんそんなことを言われているんだろうなあと
とても恥ずかしい。
村の顔役の号令で
皆が慌ただしく動き出す。
男たちが小屋から数十羽のニワトリをかつぎだして、
次次に首を包丁で切り出す。
湯気をたてて、血が流れていく。
次に、血が抜けて痙攣するトリを熱湯の中に放り込んで
皮がふやけたところであわただしくとりだして、羽や足の皮をむしる。
二日酔いの頭にはきつい光景。
結婚式の本番は明日だけれど
そこまで滞在するのも気がひけて走り出す。カシャシャ。
西昌へは川沿いの道を進む。山中とは思えないひさしぶりの平地。
100mで1m降るようなかすかな下り坂だけれど、
今までに貯めた高度の貯金を大事に使えるのはここちよい。
西昌市は涼山イ族自治州の中心で
計画的に整備された街だった。
こういう街は、だいたいがネットで公安と直結した宿泊登記システムを
使っているので嫌なかんじ。
場末の旅館をさがして寝ていると
外でガシャンと大きな音がした。
窓から様子をうかがうと、原付と自動車がぶつかったらしく
ひとり、人があお向けに倒れて動いていない。
そんな状況でも誰ひとり、救護する者はおらず
野次馬が集まるばかり。
ああ、やはりここは外国だと思った。
あんなことになって助けてくれる人はいないんだと。
怖くなった。