キゴマ

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もう安全な道だけ行こうと決めたのに、
またいつのまにか、危険な道のその分岐点まできてしまい、
どうするかを迷った。


普通にそれて安全な道にいけばいいのに、
いったん迷いだすと、不思議なもんで
どんどん危ない方の道の魅力がましていく。


ブルンジ国境沿いに伸びる300kmほどの国道8号線は、
紛争が続くブルンジから難民が流入するエリアで、
エチオピアを一緒に走ったオランダ人のミッチが
2ヶ月前にここを走ろうとしたところ、
その頃はどうも状況がわるかったらしく、現地警察から
バスに乗って目的地のキゴマまで行くことをすすめられたと
メールで送ってきた。


どこでもそうだけれど、海外の治安はとても流動的で、
結局は現地の警察に聞かないと最新の状況はわからない。
まぁ、バスが通るぐらいだからそれほど激烈な状況ではなさそう。


僕もそのキゴマに行くのだと
分岐点ニャカナジの警察署に行って相談してみると、
大きな機関銃を搭載したトラックがパトロールから帰ってきたところで、
「その方面に明日の朝出発するのなら、治安維持部隊がいるから安全。」
という。
安全といわれても微妙な返事なので、とりあえず
その日一晩考えることにした。


どうにも決心がつかなくて
早朝もう一度警察署にいくと、昨日と別の警官がいて
「安全。気にすることはない。」
と言われて、
やっと行ってみる気になった。


ニャカナジの町(といってもバラックの集合みたいなもの)
を出ようとするとやたら皆の視線が気になる。
「あ、あいつ自転車で行くんだ。」
見たいな目なのか、その目は。

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のどかな農村風景が続き、出会う村人に
「あっち、安全?」と聞くと
「安全、安全」という。
まぁ皆、片手に農作業用のパンガという刃渡り40cmぐらいの蛮刀をもっているので、
「金よこせ」と宣言すれば、誰でも強盗になれるのだけど。


このパンガ、草刈りから木の伐採、動物をつぶしたり
なんでも使えて便利そうに見えるけれど、
いざ使ってみると意外に切れ味は悪く、
使い勝手がわからない。
エチオピアから見慣れて、今は何とも思わないけど、
時折パンガをブラブラさせた目つきの悪い人とすれ違ったりすると
やっぱ首の辺りが寒くなる。



車の通行量もめっきり少なくなり、
時折、UNHCR国連難民高等弁務官事務所)の車と長距離バスが
砂埃を巻き上げて通る程度。
で、しばらく坂を登ったところで、
ぱたりと人気がなくなり、少し気味悪がっていると、
進行方向から武装したパトロールカーが現れて停まった。


昨日話した警官が乗っていて、
「結局、自転車で来たのか。」
「もう通り過ぎた20kmが最も危ない区間、特にこの坂の辺りがね。
ここから先は安全だ。」
「おめでとう。」
という。


「いや、普通の農村だったよ。」と笑いながら話すと
警官はなぜか怒り気味に
「笑ってはいけない。神に感謝しなさい。」
と言って去っていった。


ミッチいわく、
バスも武装した警官が同乗するのは、最初の40kmだけで
残りの300kmは護衛なしで走るらしい。
緊張していたわりにあっけなかったな、とそれから
毎日90kmずつ町や村をつないで走っていたのだけれど、


3日目、マケレという町をすぎてしばらく行った
人気のない急な登り坂、
ふと、横のブッシュに目をやると
サッと人が隠れた。
いつものように恥ずかしがりやの子供だったのか、
それとも、別のなにかだったのか見分けられなかった。


もしや、と思うと
もう怖くて先に進みたくなくなった。
けれど、無意識に足は先へ先へと進み、
時速5kmで押して登っていた、そのとき


銃を持った男が前方のブッシュから現れて、
そのまた前方から現れたトラックを停車させた。
黒いベレー帽をかぶっているところから見ると警官だ。
ふーっ


なーんかきな臭いところには
こうやって警察が検問を張っている。
まぁ、安全である。


分岐を曲がってから4日後に無事キゴマに着いたけれど、
緊張と疲労が蓄積して、体調を崩した。
もう1週間ほど動く気力がなくなり、
こうやってネットカフェ通いをして、
つまらん文を書いているところ。
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