アルトヴィン
夜、強い谷風のあとに雨が降り出して。
「ヒロ!雨だぞ、雨!」
工事現場の兄ちゃんたちがテントの外に集まってきて、
オロオロしている。
いい人達。
いえ、テントは防水だから問題ないんよ。
と雨に濡れながら説明する。
朝の6時。
「まぁ、チャイでもどうぞ。」
工事現場の兄ちゃんたちに誘われる。
飯場でチャイ(甘い紅茶)をいただいて雨の中出発。
トルコはなんでもとりあえず、チャイで始まる。
茶を飲む国は他にもあるけど、ここまで茶好きな国は初めて。
小さなマーケットで
「牛乳売ってないですか?」
「あるよ、じゃあまずチャイでもどうぞ。」
そんなかんじ。逆ならいいのに。
律儀にいただいていたら、それだけで日が暮れてしまうと思う。
まぁ、トルコ人はたぶんそうやって日を暮らしているんやけど。
飲んでいると、特に会話もない。
もはや一緒に茶を飲んで仲良くなろうみたいなレベルを超越している
気がする。ただ淡々と紅茶を飲む。とても儀式めいている。
なにかをやる前にはチャイ。やった後にもチャイ。
やっている間にもチャイ。
山の中なのに標高は300mまで下がってきた。
この調子だとすんなり黒海まで抜けられそうや、と
思っていたら川沿いの道を大きく迂回して急な登りが始まる。
途中、すれ違いざまにトラックの運転者が
手で大きく×の字をして、行くな行くなとジェスチャーする。
なんのことだろう。
山賊かも、と思ってとりあえず金を分散させる。
きつい登りだ。
落石が激しくてヒヤヒヤしたけれど、
結局何事もなく900mの峠までたどり着く。
なにが×だったんやろうか。
峠で休憩していたトルコ人家族のもてなし、
ここでもチャイ。
遠くに今日の目的地アルトヴィン市が見えた瞬間、愕然。
谷の急斜面にへばりつくようにして町がある。
たぶん、宿にたどりつくのに、まーた坂を登らないといけない。
もう無理や。これはたしかに×や。
で、アルトヴィン市。
峠を越えて、また人の顔が変わった。
ロシア系の金色の髪、銀色の髪の人、
プーチンみたいな顔をした人もいる。
街の入り口で
「宿はどこですか?」と聞くと、
「上に4km」と答える人。
当たり前だけど、
ロシア人みたいな顔して皆トルコ語を話す。
しばらく押してみたけれど、
神戸大学に登っていくような、あんな勾配の坂で力尽きた。
また入り口まで下って、今度はテントをはる場所を探していると、
「僕らは大学生だけど、うちに泊まればいいよ。」
と学生証を見せてくる人達。
うむ、信じられそう。
で、自転車をバス乗り場の小屋に入れて
荷物をスクールバスに積み込んで山の上にある大学に向かう。
大学ってのは、どこでも辺鄙な場所にあるもんや。
21歳4人で一軒の家の1階部分を間借りしている。
一ヶ月950リラ(=6000円)、安いもんだ。
彼らは林業を勉強している、ここらは茶の栽培が有名だそうで
働き口には困らないんだと。
トラブゾンのサッカーチームの帽子をプレゼントしてくれ、
ご飯をごちそうしてくれる。
こうやって四人は朝も昼も晩も、
赤い風呂敷に足をつっこんで、
でかいパンをちぎって分け合って食事をしているのだ。
ああ、なんて楽しい生活やろう。
彼らのうちの一人アフメット君は耳が不自由で、うまく喋られない。
皆、手話をつかってコミュニケーションをとっている。
それに四人はよく笑う。いきなり踊ったりなにやら楽しそう。
それが彼がいるためだとしたら、素晴らしいことだ。
まぁ、実際は妙な日本人がいるからなんだろうけど。
彼の故郷はエルズルム県のチャットなんだと。
「チャット、行ったよ、通ってきたよ!」
「僕の町は南のカルロバ。」
「カルロバも行った!」
エルズルムで現像した雪の写真を見せると
「カルロバだ!」とめちゃくちゃ喜ぶ。
夜はきれいなベッドをあてがわれる。
今日もまた不思議なところで寝ているなぁ。
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