チャット

宿のオーナーにお礼を言って出ようと
思ったら、すでにどこかにお出かけだった。


ドイツやイタリアに出稼ぎにでて軍資金を得て、
帰ってきて地元で一旗上げるのがトルコ人の成功ストーリーのようで、
ここのオーナーのような身なりのいい人から
「ドイツ語を話せますか?」と聞かれることが多い。
「グーテンモーゲンとバームクーヘンしかわからないよ。」と答える。


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川沿いにどんどん高度をあげていく。


標高1700m。
3月末になってもまだ融けない根雪が、
真横に見えてくる。


坂道を押していると
「乗れ、乗れ」と
道路整備中のブルドーザーのショベルを指差す
運転手のおっちゃん。


なんか楽しそうなので載せてもらった。
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狭いコクピットでおっちゃん、
トルコ語とジェスチャーでひたすら下ネタを話し続ける。
僕が女の子なら泣いていると思う。


標高1800mのカルロバというところまで
載せてもらい、また自走。
ずいぶんと景色がかわった。
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カルロバから次の大きい町チャットまでは
小さい町がひとつあるだけで、50km無人地帯の山越え
だという。


まだ2時だし、中途半端なので走り出す。
最近の日没は5時45分ぐらいで、随分と日が長くなってきている。
いけるところまで行ってテントや。

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峠に向かって、どんどん登る。
未舗装になり、登りがきつくなってきたので
もうひたすら自転車を押す。
「大丈夫か?」とすれ違いざまに車の運転手が言う。
道が荒れてきて、ちょっと不安になってきた。


あたり一面雪景色になり、ほのかな太陽の光があちこちの
山に反射して6時になってもまだライトなしで走れるほど明るい。
雪の夜は明るいということを北海道の人に聞いたことがあるけれど
こういうことか。

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でも今日はあいにくの曇空。
標高2300mの峠に着いたときは
さすがにもう真っ暗だった。


未舗装の道なのでスピードを出すとブレーキがきかなくなる。
時速10kmぐらいでゆっくりと下っていく。


もう山と空の境界以外、ほんとに真っ暗だ。
自転車のライトが照らす数m先までの道しか見えない。
進めば馬鹿らしいほど明るい町があるはず。
でも今は何も見えない。


一人や。


止まるのが怖い。
動くと安心感が得られる。
動かないと、後ろの闇に同化してしまいそうや。


時折、下から登ってくる車のライトが心強い。
でも、横をとおりすぎた後は土煙を
ライトが照らしてしまって
数秒間道路さえ見えなくなる。


そろそろテントをどこかに張ろうとおもうけれど、
道の端の暗闇に向かう勇気が無い。
ライトで照らすとかすかに青白い。
除雪された雪が積まれているようで、
その向こうに行けそうにない。


仕方ないので下れるところまで下って
土の出ているところを探すことにした。


あぁ、今日は完璧に判断ミスだ。


峠越えでテントを張る場所がないパターンは過去にもあった。
http://d.hatena.ne.jp/sekaiisshu/20100211/p1
二度とやるかと思っていたのに。
走行中の前に進みたい欲求を
冷静に鎮めることはほんと難しい。
なぜって、進むことで心が休まるからだ。


遠くにポツンと明かりが見えた。
そしてついに
下りきってしまったみたい。
標高は1700m。
雪もなくなった。


暗闇にダムかなにかがある。
水の流れる音が大きい。
ポツンと光っている光に近づく。
そこは軍関係の施設のようで、
有刺鉄線の向こうから犬がしつこく吠える。
なにやらサーチライトがあちこちを照らしている。
ここらで寝るのはやばいかな。


でも、今から先の峠を登っていくのは嫌なので
道路の反対側できるだけ施設から離れた場所でテントを張ることにした。
ライトをつけると犬がほえる。
暗闇のなか、手探りでテントを張る。
サーチライトが自転車を照らすたびに生きた心地がしない。
僕は怪しいものではないんですよ、
と手を振りたい。


テントを張り終えて、外で座って闇にとけ込んでみる。
僕が無音なら、闇も無音。
あ、案外平気だ。


「野営するときはタバコを吸ってはいけなかった。
タバコの光って夜だと10km先からでも見えるからね。」
ソウルの友人が兵役の話でそう言っていた。


じゃあ、
暗闇でタバコを吸う=素人=ゲリラ兵じゃない=狙撃されない
恐怖感の中での人間の思考って、
ほんと後から考えると笑えるけれど、当時は真剣そのもので、
怪しい者じゃないことをアピールするためにタバコを何回も吸った。


緊張して眠れそうにない。
ジッパーをあけて暗い景色をみる。
山の中のあちこちに1つ、2つ、3つ、
あれ、いくつも明かりが見える。
最初、もしや何かの探索が始まったのかとドキドキしていたけれど、
結局、軍施設のライトを見た後の残像だと気づいた。
あぁ、あほらしい。


横になっているとテントの下で何かがうごめく音。
パッと飛び起きて外にでる。
テントの縁を見てみる。
なんかわからないが、体長5cmぐらいの黒い何かが這い出て
ゆっくり草むらに逃げていった。
あぁ、気持ち悪っ!


夜も何回かサーチライトを浴びる。
でも誰も来ない。
車も全く通らない。
とても静か。
ツーっと自分の耳の音と遠くの川の音。


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