ベニスーフ

ミニアの宿を出てからは
警察の護衛はなかった。


いいんやろうかなー、と後ろを振り返っても
パトカーはいない。


いいんやろーなー、と走り出す。
あー、自由や。


気のせいか、まわりの風景も彩度が高く思える。
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道端で休憩していると
ジュースを運んでいる車が止まって
コーラをくれる。
ああ、こんな親切を受けるのは、いつぶりやろうか。


アラビア語でなにかおっちゃんは言うのだけど、
僕が解さないとわかると
しきりに自分の両目を指さすジェスチャーをする。
そのジェスチャーの意味もすいませんが、わかりません。
(あとから人に聞くと「助けてあげる」という意味)


おじさんは、僕の手帳に電話番号と
名前を書いていったけれど、
はい
数字さえも読み取れません。
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やっぱ不思議なもんや、
と思った。


自分にとって初エジプト人であるルクソールの人間は
どいつもこいつもうっとおしかったのでエジプト人評価は最悪だった。
特にガキどもの浅はかさ。
インド以東のアジアにはなかった、
東洋人に対するさげすみを含んだ笑い方をする。


「シーニー(中国人)」と連呼され、
たちの悪いのは石を投げてくる。


路地裏で若者にいきなり自転車を蹴り上げられたときは
頭に血が上って、
中指を突き立てて「Fuckyou!」とやったら
あっちも逆上して、仲間を呼んできたので思わず逃げた。
ああ情けない。


しかし不思議なもんで、「もう見放してやろうか、この国」と
思いかけたぐらいで、なにかいい事が起こる。
エジプトに限らず、どこでも。
旅行者に評判が悪いインドでさえ、ベトナムでさえ。
評価を上げては落とし、また上げては落とし。
そういう不思議な波について、旅行者同士で
共感することが多い。



どの国にもいい人も悪い人もいるさ、と
一般化する人間と話すと、しらける。
打ちのめされて歪んだり、思わぬ親切に出会ってシャキッとしたり
こういう不思議な波に翻弄されつつ、
この国はさー、いやでもさー、
とナンセンスと知りつつ
勝手に議論するのが旅行の一つの醍醐味。
そんで、自転車旅行ってのはその波の高低をよりダイナミックに
味わえる旅行方法だと思う。


日本で働いていたあるニュージーランド人が
日本からイギリスに行く手段として自転車を選んだ。
リカンベント自転車で!)
その理由を「人間が善でできているのか、悪意でできているのか
それを確かめたかったから」と言っていた。
(その旅行のきっかけになったのは、
日本人の基本的な人間性の善良さに触れたからだとも)


自分の目で人間てものが善なのか悪なのか確かめたい。
彼の企画書を見て、
その文字をみているだけでゾワッと鳥肌が立った。
その現実離れした危ういかんじがかっこいい、
すごいロマンやと思った。旅行するならこうじゃないと。


あまりにかっこよかったので、
「自転車旅行を始めた理由は?」て自分自身が
聞かれたときに、同じように答えてみた時期があったけれど
身にそぐわないので、かっこ悪く思えて言うのやめた。
まあ、その後も理由はときどき変えているけれど。


さて結局、
次の町のベニ・セーフまで警察の護衛は一切なかった。
チェックポイントも素通りで、
どうやらあのデンマーク人の言ったとおり
ミニアでエスコート区間は終わったよう。


ベニスーフの宿ではビールが飲めた。
宿のボーイは、これまたイイやつだった。


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