ソハグ

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キナのホテルを9時に出る。
昨日は北風が強くて、しんどかったけれど
今日は西向きの道なので、スイスイ進む。


キナ市街をぬけようとしたところで
警察に呼び止められる。
「この先、自転車は通れない。」
とジェスチャーで、そう言っている。


アラビア語の辞書を取り出して、話そうとしていると
「ソハグのホテルはどこですか?」
とホテルの人に書いてもらったアラビア語
警官が見つけ、なにやら談合のうえ、
なぜか通ってよしとOKがでた。



しばらく進んで、茶屋で休憩。
談笑していた人が寄ってきてタバコを勧められる。
「シュクラン、シュクラン」と吸っていると、


「あっちはカカカカッ」だと
銃を撃つ真似をしている。
その擬音語が生々しい。
銃の音というと、パンパンパンというもんだと
思っていたのだけれど。




「でも、問題ない。」
「ポリスマン。」
と。


ソワソワしながら10kmほど進むと、
後ろから紺色の車がピタッとついてくるのに気がついた。
もしかして、と、スーっと体が冷えた。


振り向くと、
車内からタバコを差し出してくる警察のおっちゃん。
ああ、これが警察の護衛か。




そこから30km。ずーっと僕の15mほどあとを
その警察車両が、ボッボッボッと低いエンジン音で
時速20km程度の僕にピッタリついてくる。






止まるのも写真撮るのも自由だけれど、それに合わせて
警察車両も止まって待つのでなんだか申し訳ない。


それで急いでこいでみたりするのだけれど、
とにかく後ろが気になって走行を全く楽しめない。
あー、こんなんならサイクリングの意味ないなあ。
なにより自由なのが自転車のいいところなのに。


昼ごろ
大きな警察のチェックポイントで止まれと言われる。
どうやら、ここから先は自転車走行は許されないらしい。
車に自転車を乗せろとジェスチャー。
「これは警察の仕事なので、お金は必要ない。」
と、所長らしき人がでてきて説明する。


伴走はもういいやと思っていたので、ちょうどよかった。
車に自転車をギュッギュッと押しこんでのせて、
時速80km、すごいスピードで車は進む。
銃をもった警察が僕と一緒に乗り込む。
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こういう護衛がはじまったのは、
ルクソールの神殿で外国人がテロ組織に
60人ほど射殺された10年前の事件があったからだ。
警察官は、自転車旅行者の扱いに慣れていて
「自転車を車に乗せても問題ないか?」とまず聞いてくる。
自走にこだわってダダをこねるサイクリストがいるんやろうな。



ナイルに掛かる橋の手前で降ろされて、
また自転車で進むことができる。
護衛がなくなって、晴れ晴れとしたような心細いような。


で数キロ悠々と進んでいると
サイレンを鳴らして警察車両が追いついてくる。
「自転車をのせてもいいか?」
あー、短い命だった。


「ここは危ないところなのですか?」
カカカッと銃を撃つ真似をして
アラビア語の辞書を使って聞いてみると、
笑って手を振り、
「安全。安全。」と警官は答える。


次のチェックポイントで降ろされる。
自転車で漕ぎ出そうとすると、
「ここはベリーデンジャラスだから、ダメだ。」
とまた自転車を別の車の後部座席に乗せられる。
走り出す。
あんなに平和そうな景色なのになあ。



そこからは15km程ごとに車を乗り換え、自転車を
積み込みなおす。でも全部警察官がやってくれる。
お金は一切受け取らない。
そして、たまに短い区間自走が許される。
もうこうなったら自転車なんか乗りたくないんやけど。
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「アビドゥスに行きたいか?」
と警察官がいうので、アビドゥスが何かわからないけど
どうせ車移動だろうし、時間もあるので
「行きたい。」と答える。
地図を見るとアビドゥスは少し主要道からそれた場所にある。


で、アビドゥスの手前10kmで車を降ろされて
そこからは車ではなく自走。
くそっ、裏目にでた。
しかし、アビドゥスってなんなんやろう。


自由だー、と思ったのもつかの間で途中から
アビドゥス管轄の警察車両がぴったり護衛につく。
申し訳ないからもうこのスタイルは嫌なんやけど。


近所の悪がきが僕を見つけて
木の棒を振ってでてくるやいなや、
後ろの警察車両を見つけて逃げていく。
あー、とても安全に進む。


あまりに風が強くてノロノロはしっていると、
後部座席の若い警察官がはやし立てはじめる。
したくもないのに高速でこいだりして、ああもう疲れた。
だいたい、
自転車がいかに風に影響されるかを一般の人は理解していない。
木の枝がわずかにゆれるほどの風でも
向かい風なら時速4、5kmはスピードが落ちるっていうのに。
車と競争なんてしている場合やないって。


車に乗ったり降りたりで、すっかり集中力がなくなっているので
たった10kmがとても長く感じた。
いつもはこぎ続けて20km、30kmするとふっと辛さが消えて
気づくと50、60km走っていたりするのだけれど、
そのチャンスを逃すとサイクリングは途端に辛いものになる。



「ウェルカム トゥ アビドゥス テンプル!」
なんやテンプルか。

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アビドゥスは大きな神殿だった。
来たいと言った手前、入らないわけにはいかないので
15ポンド(200円)の入場料を払って入る。
神殿、別に興味ないんよな。


出てくるとすっかり疲れてしまったので
この街で泊まることにした。


警察官にぴったり付き添われてついた宿は
一泊175ポンド(2500円)とバカ高い。
とても泊まれず、この小さな町には宿はほかにないらしいので
意を決して先の街のソハーグまで行くことにした。


でも夕暮れが近く、さっきのチェックポイントにつくと
自走は許されなかった。
で、また警察車両を乗り継ぎ進む。


暗闇で車を停めると
「あと10kmでソハーグだからここからは
自転車に乗っていいよ。」と警察官。


なんか余計に危ないんじゃないかと思う中途半端な場所から
ソハーグ市街へ。振り返っても護衛は誰もいない。
気温は10℃ぐらいやろうか、エジプトも冬は寒いんや。


「フォンドック(ホテル)?」を連呼して
迷いながらホテルにたどり着くと、もう夜の9時だった。


自分でこいだのが90km、車が60km。
一日で150kmも進んでしまった。
そして、その距離以上に疲れた。
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お世話になりました。


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