言葉がしみる

五日目。


予想に反してまったく眠れなかったのは、小屋の隣の道を
夜中ひっきりなしにトラックが走っていたから、だけではない。


考えてみたら、昨日も一昨日も私のとなりにはS君がおり、
昨晩はいなかった。


一人になってつくづく思う。
本当に夜というものは、人間が暮らせる世界ではない。
暗くなれば全てが疑う対象となり、少しの物音も敏感になった
僕の聴覚はとらえた。


誰かに了解をもらってテントを張る、ということもやはり
心理的に楽になるのだろうと確信した、高野山での上古沢駅のように。


だるい体で4時半にはテントを撤収し、朝露のついた稲を見て、
「夜という深い海に、地球のすべてのものは一日の半分潜るのだ」
という、ある先達の言葉を思い出す。
本当に夜というものは息苦しく、人間が暮らせる世界ではない。


昨日、きれいな水だと思っていた雨水受けをやっぱり気になって
朝のぞくと、くの字かへの字か、そんな形でピョンピョン動く
ボウフラがうようよいた。
最低。
f:id:sekaiisshu:20080618045103j:image


7時に13番大日寺を出ると、14番はすぐそこだ。
丁寧に挨拶をしてくれる中学生、こっちを通りなさいというおばあちゃん、
暑いのに大変やね、と市のはずれのここらの人は皆、遍路に優しい。


14番常楽寺は、静かなお寺。
1時間ほど居座って
寝られなかった分、朝だというのに妙に高ぶっている心を落ち着かせた。


納経を終えていつも通り、納経代の300円を差し出すと
500円玉をスッと渡してくれる。
「え?」というと
「重そうな荷物やけん、お接待。」とお寺のおばあちゃん。
南無大師遍照金剛と手を合わせた。


15番阿波国分寺は、これまた近い。5分ほどで着いた。
これが聖武天皇が鎮護国家の為、建立した国分寺かと落胆するほど
寂れていた。


が、納経所の人は優しく。
場所がわかりづらいという16番観音寺の場所を手書きの地図で説明してくれた。


f:id:sekaiisshu:20080618074815j:image
2kmほどあるくと、観音寺についた。
久々の団体バス遍路に遭遇、立て続けに2グループが先達の拍子木に合わせて
お経を唱えて、早々に立ち去っていく。
団体でしか来られない人間もいれば、一人でしか来られない私のような人間もいて
どちらが得られるものが大きいか、など断じてはいけないのだろうと
思いつつも、やっぱり違和感。なんだかな〜と思ってしまう。


スーパーでマカロニとたらこスパゲッティ、卵を買って、
さてどこかで昼食を食べようとしていると雨が降ってきた。
16番と17番の間には、善根宿という無料宿泊所があると聞いていて、
それらしき建物をさがしていると案外簡単に見つかった。
「阿波の人情…」と大きく書かれた建物。



栄タクシーという会社の社長がまったくの慈善で行っている、この宿。
トイレお風呂もあれば、洗濯機まで使わせてもらえるそう。
f:id:sekaiisshu:20080618153241j:image
壁一面に貼られたお礼の納め札


まだ12時だというのに、眠気もあるしで、もう進む気力がなくなり
今日はここでストップすることする。
部屋のある2階に上ろうと靴を脱ごうとすると、傍らにみたことのある自転車が。


もしやと思い、部屋にあがるとS君。
「今から出るところでして。」


聞けば、昨日ここに泊まったという。
「なんかここ魔力があって出られないんですよ。」


結局、彼はもう一泊することになって、疲れた僕と
一緒に昼寝をしていると、何やら階下が騒がしい。
どうやら、自転車をパンクさせてここまで数km歩いてきた青年が
泊まるらしい。
S君はパンク修理はお手の物ということで
わずかな時間で直してしまった。素晴らしい


直している間、社長が現れて
「おい、パンク直してもらっとるおまえ、それでええぞ、なんでも人にやってもらえ。」
「おい、パンク直しとるおまえ、適当でええぞ、人のもんやけん、
 ほんな一生懸命やらんでええ。適当にやっとけ。」


「若いうちの苦労は買ってでもしろっていうけど、あれは真っ赤なうそやけんな。」
「若いうちは楽して楽して楽しまくらなあかん。
 苦労やいうもんは嫌でも後からなんぼでもできるけん。」
不思議と、社長の言葉が疲れた体には素直にしみた。
言葉が何かに支えることもなく腹にストンと落ちるようで。


「楽して楽して楽しまくらなあかん」か。
ここ数日の苦行のような出来事だけではなくて、
バリからの一連の出来事、いやもっと前から、準備をしていた頃からの自分を思い出す。


もしかするともっと前から、楽なんてことを避けてきた。
それは自分の偏った考えだった。
今自分を苦しめているのは、なんてことはない、そう考える自分自身なんだろう。


明日17番を打てば、実家へはあと10kmほど。
しばらく家に居て楽をしよう。焦る必要は何もない。誰も見ていない、
そんな自分をようやく許せる。
山寺を登って下りて得た、この深い納得に僕は心底酔った。


夕方、偶然集まった同世代3人、ござを敷いて一緒に飯を食べた。
夜はまだ少し涼しい6月半ば、一緒に地図を見ていると
まるで外国のドミトリーに泊まったみたいだと嬉しくなった。
地元でこんなに楽しいことができるなんて。




最高の一夜だった。



本日の歩数
15015歩



にほんブログ村 旅行ブログ 世界一周へ ← 世界一周は必ずする。
ココロよろこぶキモチつたわるWebマガジン「リアン」
ルーカス監督へ送る、愛知からの巻物
NINJApostmanを応援!


■■■計画協力企業 ※敬称略、順不同■■■
株式会社あわわ
マタタビ
株式会社オージーケーカブト
株式会社モンベル
アズマ産業株式会社
株式会社アルテリア
株式会社モチヅキ
株式会社キャットアイ
株式会社エバニュー
株式会社エイアンドエフ
有限会社トヨクニ
サムライ日本プロジェクト
大法紡績有限会社
有限会社東江物産
株式会社マルイ
株式会社ティムコ
挨拶状ドットコム
モベルコミュニケーションズリミテッド