タフィーラ

朝9時。気温7度。
今にも雨が降りそうな曇り空。近頃天気が悪い。
ヨルダンは冬に雨がよくふるんだと。
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再びキングスハイウェイに合流するために
自転車を押して坂を登る。ああ、すごい坂や。
腕力だけでは押せなくてサドルに腰を当てて登る。


雨がポツポツ落ちてくる。


とおりすがりの車が止まり、
運転手が辛そうな僕を見て、
「坂の上まで乗せてやる。」と言うのだけど、
ああ、その後に続く言葉がいけない。
「2ディナール(250円)。」と金をせびってくる。
「ラッ、シュクラン(いいえ、けっこうです。)」
というと、
「ハウマッチ(いくらならいいんだ?)」と。


こういわれると、こっちも意地で。
坂は神聖だ。坂にこそ何かある。
坂はサイクリストのためにある。
絶対に車に乗らない。
なめんなよ。


やっとこさハイウェイに戻り、今度は長い坂を下る。
ショーバックという古い城で有名な街で
レストランに入ろうとしたら、
店の前に二台のビアンキを見つけた。


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アメリカから5週間の自転車旅行に来ている二人。
何を言ってもケラケラ笑う彼女さんがかわいらしかった。
いいなあ、ペアランは。


ペアランのことを欧米人はよく
「share the road」と通っぽく言う。
道を共有する、いい表現や。


部屋をシェアするのと同じように、
道を共有する。


気の合わない人とシェアすると最悪や。
休憩のタイミング、走る速さなんかはどうにでもなる。
問題は車間、話す内容。
併走しながら話はしたくない。
(実のところは僕の英語のレベルが気になるのだけれど。)


一人の時、
なんかわからんけど気分が高揚している時、
道路の上で気の合う人なんているんかな、とよく思う。


疲れて休憩する。
切れた息を元通りにするだけではなくて、
またがったまま、あたりをふっと見回して
何も考えずぼーっとしたい。
そこからみえる景色の感想はなにもない。
誰にも話しかけられたくない。
そばにいるのが誰でもだめな気がする。
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彼らは先にレストランを出て、
僕は雨が弱くなるのを待って出発した。


ぼーっと休憩しつつ、
丘をいくつかこえる。
まばらに植えられたオリーブの木。


猫の額ほどの空き地で若者がサッカーをしている。
ボールが谷の方向に行ったら、
死海まで落ちていきそうなんやけど。


日が暮れてタフィーラの市街地に着く。
市街地といっても、崖沿いに商店が軒を連ねているだけ。


街の人に「この街の宿はどこですか?」
と聞くと、


「ない。」という。
ああ、このパターンは良くない。
宿がないとわかっていたら、
手前のどこかの空き地か民家の横にテントを張らせてもらって
いたんやけど。


市街地に着いて、あたりが暗くなってから宿に泊まれないとなると
寝床を確保するのは格段に面倒になる。
空き地がないし、総じて人もなにかに急いでいて冷たい。
どこの国、どこの町でもどうにかしろよ的にあしらわれる。


警察の車を見つけて、どこかに空き地がないか
相談する。
「警察署に泊まっていい。」
と言ってくれる。
タイではよく警察署に泊まった。
隣のマレーシアでは、警察署に行くと
「なぜ、警察に宿の相談に来たんだ。」と冷たかった。
警察もいろいろ。


電話で署に連絡をとってくれて、
「ついてきなさい。」とさらに丘の上の警察署に行く。


急な坂、
「なんて遅いんだ。」「パトカーに乗るか?」
「ラッ、シュクラン(いいえ、けっこうです)。」


警察署につくと、
「ハーイ、ウェルカム!」
と出迎えてくれる。


牢屋のある部屋に案内され、
「ここで寝るか?」と冗談を言うヨルダン警察。
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仮眠室で警察官と話す。
警「シャーイ(茶)?」
警「メラミーヤはいるか?」
僕「メラミーヤって何ですか?」
警「メラミーヤはこれだ。」
と白く乾燥した葉っぱをロッカーから取り出す。
メラミーヤってセージか。
煎じて茶と一緒に飲むと体がクリーンに
なるんだと。



「これはハシシ(大麻)ではないですか?」
と聞くと、皆大笑いだった。


8時が勤務交代の時間らしく
入れ替わり立ち替わり、警察官が出勤してきて
自己紹介をする。


なにかよくわからないけれど、
携帯電話を渡されて「スピーク、アラビック」という。


電話の向こうの相手に
「ヨルダンのハシシはとてもおいしい。」
と言うと、また皆大笑いだった。


酒も入っていないのにこのテンションはすごい。
署長の許可がでなかったので、仮眠室では寝られない。
アラビア語はわからないけれど、
「あの署長はなんだって、許可しないんだ!」
「日本人だぞ、日本人。問題ないぞ。」
と皆が怒っているっぽくて、うれしい。


駐車場でテントを張る。
当直の警官が、毛布を持ってきてくれる。
寝袋があるので大丈夫といっても、寝袋が説明できず、
理解してくれないので、
ありがたく借りた。


テントに入って寝ようとゴソゴソしていると
「毛布1枚で大丈夫か?」と外からのぞいてくる。


夜中、強い風が吹いた。
外をのぞくと警察車両がいつの間にか停車していて、
壮観だった。


へんなところで寝とるもんや。
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