カトマンズ2
「はじめましてから始まって、ご飯を一緒に食べたり、停電のときは
月明かりの下でおしゃべりしたり、サリーを着せてもらったり、
一緒にクルタ(女性のカジュアル民族衣装)を買いに行ったりと、
家族のように仲良くしてくれました。」
現在NYに住んでいるエリコさんから預かっている手紙は
カトマンズで暮らしているときにお世話になった大家さん宛て。
今ではなぜか連絡がとれなくなっているとのこと。
「マニ・タパさんに会いたいのです。」
彼女の勤め先であるという銀行で守衛さんに聞いてみる。
英語が通じなかったので、ヒンディー語で。
(ネパールではヒンディー語のドラマがテレビで流れているので
たいていの人は流暢ではなくても話せるし、理解できるみたい。)
「今日はもう閉まってしまって中には誰もいないから
明日来なさい。」
翌日、再度訪問。中は忙しそうだったので
11時すぎ、お昼ご飯だろうか、外に出かける
銀行員をつかまえて話してみる。
「マニ・タパさんに会いたいのです。」
「彼女ならこの銀行を辞めて、別の銀行に勤めているよ。」
その銀行はどこにあるんでしょう?
「シビル・バンクと言って、カロワリ地区にある。」
自転車で30分、ネパール人に道を聞きながら
シビル・バンクにむかう。
皆親切であった。
迷路のようなカトマンズ中心部。
現地人しか使わないであろう細い路地を進み
教えてくれたいくつかの目印をさがしながら走っている最中、
なんで、そこに向かって走っているのか俺。
背中のバッグの中の手紙に誘導されるように進んでいるんだな
と思うと、この偶然に振りまわされるシチュエーションも楽しかった。
銀行の入っているビルにたどり着く。
周囲のレンガまるだしの周囲の店と違って、とても豪奢なつくりの建物。
中に入ってみて、頭のよさそうなお兄さんに聞いてみる。
「マニ・タパさんに会いたいのです。」
しばらく建物中を探しまわってくれた後、
「彼女は今日は休日だから、明日来なさい。」
っつぅー
その翌日、3度目の正直で会えるかどうか。
会えそうな予感がプンプンする。
中に入って、身なりのいい女の人に聞いてみる。
「マニ・タパさんに会いたいのです。」
「それは私ですが。」と、
でたでたIt's meパターン。
ああ、あなたが!
でも怪訝な顔のマニ・タパさん。
エリコさんから手紙を託されたこと。
日本から自転車できたこと。
この手紙は2年半前に書かれたものであること。
話すごとに、マニ・タパさんの顔が柔らなくなっていく。
警戒した顔が、手紙を託したエリコさんの顔や思い出なんかを
通して変わっていく。
ほんの数秒のこの時間が好きだ。
「ここに来るまで、大変だったでしょう」
大変だなんて微塵も思わない。
手紙に導かれて迷路みたいなカトマンズ市内での人探し。
いや、ほんまに楽しかった。
「一度、一緒にご飯をたべましょう。
私の手作りの料理を。」