ジョグジャカルタ2

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「日本人にとっての富士山と同じように
ムラピ山とその麓に広がる田園は
ジャワ人にとっての心象風景です。」


バイクと車だらけのジョグジャの街中を
地道に北に向かって自転車をこぐと
そのムラピ山が遠くに見えてくる、はずなのだけれど
あいにくの曇り空で裾の方しか見えない。




名古屋のエイジさんから託された手紙は
彼の留学時代の下宿先前にある食堂で働いている
マス・テクノ宛て。


インドネシア語でマスは名前の前につけて
○○兄の意味で、実際に使うと皆喜ぶ。


そのテクノ兄の働くレストランは
ムラピ山が見え始めるあたりの町のB地区にある。
入り組んだ路地を探検する。至福の時だ。




マス・テクノの働く食堂を見つけた。


いきなり明かすのももったいないので
店に入って客のフリをしてメニューを見ていたのだけど
店員に「ナニ、タベル?」と日本語で聞かれると
なにか面倒になって
「マス・テクノはどこですか?」と聞いた。
「サヤ(私)」と答えたその店員がマス・テクノだった。
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マス・テクノ、バリから出て一番最初に手渡すはずの
その人に手紙を渡した。




「まあ、すわりなさい。」と席をすすめられて
色々聞かれるのだけど、インドネシア語がさっぱりで
ニヤニヤ笑っているばかりの僕に


「エイジ ライクス」と
食堂の名物のナシゴレン(チャーハン)を出してくれた。
毎日、こればかり食べていたんだって。

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徳島で会ったときのエイジさんの顔が目に浮かぶ。



いっこうに話がすすまない僕らのために
英語が話せるマス・ジェフリーが来た。
彼もエイジさんを知っている。

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「エイジに何年会ってないかな、10年かな、5年かな。」
ずいぶん曖昧な記憶なんだなあ。


「マス・テクノはさあ、エイジが日本に帰るときにくれた
携帯電話の番号を今も使っているんだよ。」




さて、
この手紙で計10通配達したことになる。
あいかわらず手紙は走ることのモチベーションにならない。
あえて時間をかけてとどけることの意味さえ今はよくわからない。
考えてもいない。
長い距離を他人のために走るなんて無理だと。いまさらだけど思う。


数カ月前、インタビューめいたものを日本から受けたことがあって
なぜ郵便配達をしているのか?という問いに
うーんと悩んで答えたのが「行き先を決めてくれるから。」



これはかなり正直な答えだったと思う。

その頃は前回のようになるのがいやで、他人と配達云々を考えずに
とにかく遠くまで走ることに集中していたので、
極端な表現だったんだろうけども。


聞いた人は「へ?」って感じで
「行き先を決めることしか意味はないんですか?」
って半ば怒ったよな文面をよこして、僕は戸惑ったのだけれど。
彼は、手紙があるから走っていける、
きっとそんな答えを彼は期待していたんだろうと思う。



10通配達してもやっぱり、
「行き先を決めてくれるから」手紙を持っていると思う。
基本は自分の満足のために走っていて、手紙はそれぐらいの意味しかない。
それぐらいといっても、行き先をきめてくれるというのは
こうやって長期間旅行に出ているとありがたいものなんだけど。



ただ、
届けた先には、通り過ぎてばかりのいつもとは違う、
濃い出会いと、何かしらの自分の心の動きがあったので、
今は配達を楽しみにしている。
まあ、これは当初から想定していたことなんだけど。


でもそれが走るモチベーションにはならない。
なんか矛盾しているようなので、もっとよく考えると、
いわばモチベーションにならないように心がけている。


基本は自分のため、そのなかに他人の喜ぶなにかがあれば楽しい。